「糖質制限と脂質制限、どっちが痩せる?」——栄養指導で年に100回は聞かれる質問です。SNSを開けば「ローカーボで10kg減!」「脂質制限のほうが健康的」と真逆の成功談が並び、どちらを信じていいかわからない方が多いのではないでしょうか。

論文ではこうです。結論から言えば、12か月後の体重減少量に統計的な有意差はありません。ただし短期の体感、続けやすさ、体質との相性には明確な違いがある。今回は一次情報で効果量を確認しながら、「自分にはどちらが合うか」を判断するための基準を整理します。

論文が示す「どっちでも同じ」という事実

2018年にJAMA誌に掲載されたDIETFITS試験(Gardner et al.)は、609人の過体重成人を低脂質群と低糖質群にランダム割り付けし、12か月追跡した大規模RCTです。結果は低脂質群−5.3kg、低糖質群−6.0kgで、統計的有意差なし。さらに遺伝子型やインスリン分泌量で「向いている食事法」を予測できるか検証しましたが、こちらも有意な関連は認められませんでした。

2022年のFrontiers in Nutrition誌メタ分析(過体重・肥満成人のRCTを統合)でも、6〜12か月時点で低糖質群が平均−1.30kgほど多く減量していたものの、12か月を超えると差はほぼ消失しています。つまり「短期的には糖質制限がやや優位に見えるが、1年後はほぼ同じ」というのが現時点のエビデンスの到達点です。

効果量を確認すると、差の正体は明快です。糖質1gは約3gの水分を保持するため、糖質制限を始めた直後に体内の水分とグリコーゲンが抜けて体重計の数字が急に落ちます。これは脂肪が減ったわけではなく、水分の出入りです。逆に糖質を戻すと体重はすぐに1〜2kg戻る。わたし自身、毎朝5時の体重記録を12年続けていますが、糖質量を変えた翌日の体重変動はまさにこのパターンです。

それでも「向き不向き」はある——5つの判断基準

論文上は同等でも、続けられるかどうかで結果は大きく変わります。12年の栄養指導で3,000人以上を担当してきた経験から、以下の5項目で自分に合う方を判断することをおすすめします。

1. 主食への依存度

ごはん・パン・麺を抜くのが精神的につらい方は、脂質制限向きです。主食を残したまま揚げ物・脂身・バター・菓子パンの脂質をカットする方がストレスが少なく、脱落率が下がります。

2. 甘いもの欲求の強さ

「甘いものがやめられない」という方に極端な糖質制限を課すと、反動で過食しやすくなります。一方で、段階的に糖質の"質"を置き換えるアプローチ——たとえば朝食でタンパク質を20g確保して血糖値スパイクを抑えるだけで、午後の甘いもの欲求が約40%下がるという臨床栄養データもあります。

3. 外食・コンビニ食の頻度

外食が多い方は脂質制限のほうが実行しやすい傾向があります。糖質制限はごはんを残す必要がありますが、脂質制限なら「焼き魚定食」「鶏むね肉のサラダ」など、コンビニやチェーン店でも選択肢を確保できます。

4. 運動習慣の有無

週3回以上の筋トレや有酸素運動をしている方は、糖質が運動時の主要なエネルギー源になるため、極端な糖質カットはパフォーマンス低下を招きます。運動量が多い方は脂質制限のほうがトレーニングとの両立がしやすい。

5. 女性ホルモンの変動期にいるか

ここは声を大にして伝えたいポイントです。わたし自身、30代後半で流行りの極端糖質制限を半年続けた結果、甲状腺ホルモンT3が低下しました。冷え、疲労感、髪のパサつき——検査で数値を見るまで原因がわからなかった。食事を見直してタンパク質と適切な糖質を戻したことで回復しましたが、あの半年間は本当につらかった。

2025年のCureus誌レビューでも、低糖質食はインスリン低下を介してT4→T3変換効率を下げることが確認されています。更年期前後のエストロゲン減少とTBG(甲状腺ホルモン結合グロブリン)低下が重なると、甲状腺機能へのダメージはさらに大きくなります。40代以降の女性が糖質制限を選ぶ場合、最低でも100g/日は確保してください

どちらを選んでも守るべき3つの共通ルール

糖質制限・脂質制限のどちらを選んでも、以下の3ルールは共通です。

ルール1:タンパク質は体重×1.2〜1.6g/日、1食20〜30gで分散摂取
筋肉量を維持しなければ基礎代謝が落ち、結局リバウンドします。アナボリック抵抗性が高まる40代以降は1食0.40g/kg体重が必要です。

ルール2:カロリー制限幅は−300〜500kcal/日以内
どちらの方法であれ、最終的に体脂肪を減らすのはカロリー赤字です。500kcalを超える制限は筋肉の分解を加速させ、顔のボリュームまで落とすリスクがあります。

ルール3:2週間ごとに体脂肪率トレンドを確認する
体重が横ばいでも体脂肪率が下がっていれば筋肉が増えている「偽の停滞」です。逆に体脂肪率も横ばいなら代謝適応が起きている可能性があるため、食事の見直しが必要になります。

迷ったら「脂質制限から」が安全牌

「それでもどっちかわからない」という方には、まず脂質制限から試すことを提案しています。理由はシンプルで、主食を抜かないぶん甲状腺ホルモンへのリスクが低く、外食対応もしやすく、脱落率が低い。2〜3か月続けて体脂肪率の変化を見たうえで、効果が頭打ちなら糖質の質を段階的に見直す——この順番が、12年の臨床経験から見て最も安全に結果が出るルートです。

FAQ

糖質制限と脂質制限を同時にやったらもっと痩せますか?

おすすめしません。両方を同時に極端に制限するとタンパク質の割合が異常に高くなり、腎臓への負担が増えます。また、エネルギー不足で筋肉の分解が進み、基礎代謝が落ちてリバウンドしやすくなります。どちらか一方を選び、カロリー制限幅を−300〜500kcal/日以内に収めるのが基本です。

遺伝子検査で「糖質制限向き」と出たらそちらを選ぶべき?

現時点では、遺伝子型でダイエット法の効果を予測できるという強いエビデンスはありません。DIETFITS試験(609人、12か月)でも遺伝子型とダイエット法の効果に有意な関連は認められませんでした。遺伝子検査は参考程度に留め、実際の体脂肪率トレンドと体調で判断してください。

糖質制限をしているのに痩せないのはなぜ?

よくある原因は3つ。①糖質は減らしたが脂質の摂りすぎでカロリー収支がプラスになっている、②タンパク質不足で筋肉量が減り基礎代謝が落ちている、③糖質制限のつもりが糖質100g/日を切っておりT3が低下して代謝が下がっている。まずは3日間の食事記録でカロリーとPFCバランスを確認することをおすすめします。

糖質制限中にごはんが食べたくなったらどうすれば?

糖質の"質"を工夫してください。白米の代わりに玄米や雑穀米にするだけで食物繊維量が増え、血糖値スパイクが緩やかになります。1食の糖質量を40〜50g程度に設定し、タンパク質と一緒に食べれば血糖コントロールは十分可能です。一気にゼロにするより、段階的な質の改善のほうが継続率は高い。これは年間100件超の「甘いものがやめられない」相談を受けてきた実感です。

参考文献