12年間の栄養指導で、同じ年齢でも老化のスピードがまるで違う方を何百人も見てきました。食事も運動もそこそこ気をつけているのに、肌のくすみ・関節のこわばり・疲れやすさが年々ひどくなる方がいる一方で、70代でも肌にハリがある方もいる。
この差を生む原因のひとつとして、近年の老化研究で注目されているのが「インフラメイジング(inflammaging)」です。論文ではこうです——加齢に伴い体内で慢性的な低レベルの炎症が持続する状態のことで、2019年のNature Medicine誌レビュー(Furman et al.)では、この慢性炎症が心血管疾患・糖尿病・がんなど加齢関連疾患の共通基盤であると整理されています。
そして重要なのは、この慢性炎症は食事で抑えられるエビデンスが積み上がっていること。2025年のNutrition Reviews誌メタ分析(33件RCT、3,476人)では、野菜・魚・オリーブオイル中心の食事パターンが炎症マーカーを有意に低下させることが確認されています。一次情報で「体内の炎症を食事でどこまで抑えられるのか」を整理し、明日から始められる5つの抗炎症ルールをお伝えします。
インフラメイジングとは——「静かに燃え続ける火」の正体
加齢とともに体内では、自覚症状のない低レベルの炎症が持続するようになります。これがインフラメイジング(inflammaging)です。
通常の炎症は怪我や感染に対する防御反応で、数日で治まります。ところが加齢に伴い、老化した細胞(老化細胞)が体内に蓄積し、IL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインを出し続けるようになる。免疫システム自体の老化(免疫老化)も重なり、炎症の「消火」がうまくいかなくなるのです。
この状態が続くと何が起きるか。コラーゲンの分解が促進されて肌のたるみやシワが加速する。血管壁が傷つき動脈硬化のリスクが上がる。インスリン抵抗性が高まり太りやすくなる。いわば体の中で小さな火がずっと燻り続けている状態です。
問題は、この炎症がほとんど自覚できないこと。血液検査でhs-CRP(高感度CRP)の値を確認しない限り、体内で炎症が進んでいるかどうかは外からは見えません。
なぜ40代から「隠れ炎症」が加速するのか
40代は慢性炎症が加速する分岐点です。理由は3つあります。
1つ目は、エストロゲンの低下。エストロゲンには抗炎症作用があり、閉経に向けてこの防御壁が薄くなっていきます。エストロゲンが減少するとNF-κB(炎症のマスタースイッチ)の活性が上がりやすくなり、炎症性サイトカインの産生が増加します。
2つ目は、筋肉量の低下。筋肉は単なる運動器官ではなく、抗炎症性のマイオカイン(IL-15など)を分泌する「臓器」でもあります。加齢で筋肉が減ると、炎症を抑える力も弱まる。サルコペニアと慢性炎症は表裏一体の関係です。
3つ目は、腸内環境の変化。加齢とともに善玉菌(ビフィズス菌など)が減少し、腸壁のバリア機能が低下すると、細菌由来のLPS(リポ多糖)が血中に漏れ出して全身性の炎症を引き起こしやすくなります。
毎朝5時に体重・体脂肪率・血圧を記録し続けて12年になりますが、40代以降のクライアントで「食事を変えていないのに体調が悪化した」と訴える方の多くは、この3つの要因が重なっているパターンでした。
食事で炎症を抑えられる——2025年メタ分析の効果量
効果量を確認しておきましょう。
2025年、Nutrition Reviews誌に掲載されたKeshaniらのメタ分析は、地中海食パターン(野菜・果物・魚・オリーブオイル・全粒穀物中心の食事)と炎症マーカーの関係を33件のRCT(ランダム化比較試験、計3,476人)で統合分析しました。結果は明確で、対照群と比較してhs-CRPとIL-6が有意に低下。特に60歳未満の群と、介入期間12週間未満の群で効果が大きかったと報告されています。
つまり、40〜50代で始めるほうが効果が高く、しかも3か月以内に変化が出る可能性があるということです。
さらに2026年のFrontiers in Nutrition誌メタ分析(9件RCT、504人)では、オメガ3脂肪酸の摂取がIL-6とCRPの両方を有意に低下させることが確認されています。また2025年のJournal of Physiological Anthropology誌メタ分析(61件統合)では、ポリフェノールの経口摂取がシワ改善に有意な効果を示し、そのメカニズムとして抗酸化作用と抗炎症作用の両方が報告されました。
こうしたデータを踏まえ、3,000人以上の臨床経験と組み合わせた5つの抗炎症ルールを整理しました。
老化を加速する慢性炎症を食事で抑える5つのルール
ルール1:オメガ3脂肪酸を毎日摂る
オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)は、炎症性サイトカインの産生を直接抑制するレゾルビンやプロテクチンの原料になります。目安は1日2g(EPA+DHA合計)。青魚1切れ(サバ・鮭・イワシ)でほぼ達成できます。
実践のコツは朝と夜の2回に分けること。朝食に鮭フレーク、夕食に青魚の焼き物、と分散すれば無理なく続きます。脂溶性なので、油脂と一緒に摂ると吸収率が上がります。
ルール2:ポリフェノールを「色」で選ぶ
ポリフェノールの抗炎症効果は、2025年メタ分析(61件統合)で有意差が確認されています。緑茶のカテキン、ベリー類のアントシアニン、カカオのフラバノール、トマトのリコピン。色の濃い食材にポリフェノールは多い。
1日の目安は「5色の野菜・果物」。赤(トマト)、緑(ほうれん草・ブロッコリー)、紫(ブルーベリー・なす)、橙(にんじん・かぼちゃ)、白(玉ねぎ・にんにく)を意識するだけで、多様なポリフェノールを網羅できます。
ルール3:超加工食品と精製糖を減らす
超加工食品に含まれる精製された油脂・糖質・添加物は、NF-κB経路を活性化して炎症性サイトカインの産生を促します。特に果糖ブドウ糖液糖を含む清涼飲料水は、液体からの糖質が血糖値スパイクを急激に引き起こし、AGEs生成と炎症を同時に加速させる。
まずは「飲み物から変える」。清涼飲料水を水・麦茶・緑茶に置き換えるだけで、炎症の入口をひとつ塞げます。完璧を目指さず、週に1〜2品ずつ置き換えていくのが続くコツです。
ルール4:食物繊維で腸壁バリアを守る
腸壁バリアの低下は全身性炎症の引き金になります。食物繊維は腸内細菌のエサとなって短鎖脂肪酸を産生し、腸壁のバリア機能を維持します。目標は1日20g以上。
わたし自身、朝はオートミールにほうれん草と鮭フレークを乗せるのが定番です。オートミール1食で約3gの食物繊維、昼の根菜やきのこの副菜、夕食の納豆(1パックで約3g)を積み上げれば20gは十分到達できます。食物繊維・オメガ3・ポリフェノールを意識すると、結果として地中海食に近い構成になります。
ルール5:タンパク質の分散摂取で筋肉という「消火器」を守る
筋肉は最大の抗炎症臓器です。40代以降はアナボリック抵抗性が上がるため、1食あたり20〜30gのタンパク質を3食に分散させる必要があります。
更年期外来で「最近肌にハリが戻った」と報告してくれた70代の女性がいました。やったことはタンパク質摂取量を体重1kgあたり1.0gから1.5gに増やし、ビタミンDを追加しただけ。半年でアルブミンとIGF-1が改善し、肌の弾力測定値も上昇しました。タンパク質を増やすことは、コラーゲン合成の材料になるだけでなく、筋肉量を維持して体内の炎症を鎮める力を保つことにもつながるのです。
FAQ
hs-CRPの検査はどこで受けられますか?
一般的な健康診断のオプションや人間ドックで測定できます。基準値は0.3mg/dL以下が正常とされますが、慢性炎症の評価では0.1mg/dL以上でもリスク因子とされることがあります。かかりつけ医に相談すれば、保険適用で測定できる場合もあります。
サプリメントで炎症は抑えられますか?
オメガ3(EPA/DHA)サプリメントは、魚の摂取が難しい場合の代替手段として一定のエビデンスがあります。ただしサプリメント単体で食事全体の炎症度を下げるのは困難です。まず食事パターンの改善が優先で、サプリは補助的な位置づけと考えてください。
抗炎症食を始めてどのくらいで効果が出ますか?
2025年メタ分析では、12週間未満の介入でもIL-6の有意な低下が確認されています。体感としては、4〜6週間で「朝の疲労感が減った」「肌のくすみが薄くなった」という報告がクライアントから出始めるケースが多い。ただし肌のコラーゲン代謝サイクルに反映されるまでには2〜3か月かかります。
糖質制限をしていれば炎症は抑えられますか?
一概には言えません。極端な糖質制限はT3(甲状腺ホルモン)を低下させ、代謝全体を落とすリスクがあります。わたし自身、30代後半に極端な糖質制限でT3が低下した経験があります。炎症を抑えるには糖質の「量」ではなく「質」を変えること——精製糖を減らし、食物繊維の多い未精製穀物に切り替えるのが効果的です。糖質は最低100g/日を確保してください。
参考文献
- Mediterranean Diet Reduces Inflammation in Adults: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Controlled Trials — Keshani M et al., Nutrition Reviews, 2025(33件RCT、3,476人)
- Regulation of inflammation by omega-3 and omega-6 fatty acids: a meta-analysis of randomized trials — Frontiers in Nutrition, 2026(9件RCT、504人)
- Dietary interventions in skin ageing: a systematic review and meta-analysis — Journal of Physiological Anthropology, 2025(61件統合)
- Chronic inflammation in the etiology of disease across the life span — Furman D et al., Nature Medicine, 25(12):1822-1832, 2019






